グラフィックデザインを経験したデザイナーから見たUXデザイン
設計者としてのデザイナー
日本でのデザイナーという職業には、「絵が描ける」、「センスで仕事をしている」というイメージがつきまといます。またアーティストと混同して、常にオリジナル性を求められる傾向にもあります。
それは先日のオリンピック関連の騒動でもあったように、似ている似ていないの話に終始してしまい、コンセプトとして根底にある部分にスポットが当たらなかったことからもわかります。とはいえ、真似をして著作権を犯すことを容認はできませんが、それはまた別の話になってしまいますので、今は置いておきましょう。
ではデザインはどこを見れば良いのか。ですが、それがUXデザインという、今求められているデザインの本質だと思います。UXデザインという言葉がWebの世界広まり、注目を集め始めたのはここ数年のことで、それ以降、UIデザイナーやUXデザイナーという職種まで耳にするようになりました。
しかしその裏で、「UXとはなにか」という根本的な部分は、一般にはあまり認知されていないように感じます。「UXはユーザーエクスペリエンス、つまり体験を表す。」文字にすると簡単なようにも見えますが、ではその体験とは一体何を指しているのか...答えは意外と簡単で、まずはこれまでの「見た目を作るデザイン」を忘れてください。
日本ではデザイン=装飾の意味で使用する場面が多く、デザインという単語を使っている以上、どうしても見た目に偏ろうとしてしまいます。「UXデザインは装飾ではない、人を考えた設計」です。とはいえ、これだけではわかり難いと思うので、具体的にどのように考えるのか、いくつか例を挙げてみます。
誰のためのデザインか
今見ているこのWebページは、PCでは行長(一行の文字数)が約40文字になっています。これに、日本人の読む速度の平均値、一般的には500~600字/分と言われていますが、この速度を当てはめると約15行で1分。さらに、フォントサイズやブラウザの高さを考慮すれば、おおよそ高さは500~600pxで1分という計算になります。
ではこの600pxごとに1分で自動スクロールするボタンを設置したページにすれば、それはユーザーのためになるでしょうか?
答えは、Yesでもあり、Noでもあります。
まず考えなければいけないのは、「なぜ」自動スクロールにするのかです。デザインは目的があってされるものなので、目的によって手段も変わってきます。おそらく、一般のユーザーは自分の読む速度で、自分でスクロールすることを選ぶでしょう。
しかしここで考え方を変えてみてください。例えば四肢の不自由な人や、手が離せない状況で読むWebページであれば、自動スクロールボタンを設置することで、一気に使いやすさも、快適さも上がってくるかも知れません。
つまり、この自動スクロールという機能を必要としているユーザーがどれだけ居て、目的としたターゲットに合っているのか、また自動化することで本当にユーザーの手助けができるのか、そして、そこに快適さはあるか。UXでは、この快適さにも重点を置いています。
当たり前の中の感動
ではUXとは、ユーザーのために様々な機能や使い勝手を考えてあげることかと言うと、UXは何も、機能を設置して快適にすることだけを指しているわけではありません。機能や操作性だけでは、それはUI(ユーザーインターフェース)をデザインしているだけになってしまいます。違う例えをしてみます。次の動画は、ボタンにマウスを乗せた動作を録画したものです。
あなたの思った通りに動いたのはどちらですか?
おそらくほとんどの人は、浮き上がるButton02を見て「違和感」を感じたと思います。なぜなら私たちは、「ボタンは押せばへこむ」と認識しているからです。浮き上がってしまうボタンは実世界ではほぼ存在しませんし、その動きに違和感や気持ち悪さを抱いてしまいます。
これでは、ユーサーは気持ち良く操作をすることができません。このように、ユーザーの快適さは機能面だけでなく、心理面も大きく影響します。UXとは、使いやすさや快適さ、そしてユーザーの心理や感情を考えて設計していくことです。目的やゴールに、いかにストレスを与えず、いかに感動へとユーザーを導くかを考えていきます。
UXデザインとは
これらの説明だけでは、まだ「UXデザインはユーザーをUI(操作感で)快適にするのが中心」と勘違いしてしまいそうですが、UXはそれだけではありません。
例えば、すぐれたUI設計をされたオークションサイトで買い物したとします。ところが、届いたものがイメージしていたものとは全く違うものだった場合、購入者はこれに肩を落とし、「もうあのサイトは使わないようにしよう」と思ってしまいます。
すでにわかる通り、これは操作性や快適さだけの話ではありません。UXデザインでは、これらを解決するために、どのように販売する側と、購入する側のユーザーの意識を共通化させるか。または、基準などを設けて、認識のズレを減らしてあげるか。など、ユーザーの満足度をあげることを考えます。
そうやって考えていくと、UXデザインは、見た目を中心とするグラフィカルな部分だけではなく、ディレクターやプロデューサーのような、ひとつ二つ前の企画や設計から携わる必要があることがわかります。
ここまで、「快適」「感動」「満足度」といくつかのキーワードを上げてみましたが、本来、UXデザインは難しいことではありません。UXはデザインの本質を言葉にしたもので、当たり前のものだと私は思っています。なぜならデザインとは、人のために、使いやすく、伝わりやすくと考えていく設計であって、装飾ではないからです。そこに目的やコンセプトがないものは、デザインとは別のものになってしまいます。
デザイナーは、情報を整理し、いつ、どこで、だれが、なにを、どのように、どうする。という行動や心理を読み解き、そこに最適なものを用意し、感動を与える設計者になりましょう。
UXデザイナーでも、Webデザイナーでも、グラフィックデザイナーでも、その根底には「人のために」があります。そして人のためになるものは、なにも斬新で、突飛な、特別なものではありません。ちょっとした工夫と理解で全ては使いやすくなり、人は感動します。
デザインを見直すのであれば、今一度、身の回りのもの、音、色、動きなど、五感から得られる情報や信号の全てを見つめ直してみましょう。当たり前の中にこそ、UXのヒントはあります。
UXについて調べたり、学ぶ機会は増えているものの、日本国内でのイベントはまだ充実しているとは言い難い部分があります。
書籍などに関しても同様で、今現在、国内で執筆されているUI/UX本は多くはありません。
ワークショップなど実戦的なシナリオ作成を通して、情報アーキテクチャや設計、戦略の手法を学ぶことで、ビジネスの次の一手が見えてくるかもしれません。
本イベントを通して、国内のUXが大きく飛躍することに期待しています。