間違ったUXデザイン
ビジネスとUX
ユーザーエクスペリエンス(UX)が世界的に注目されるキーワードになって暫く経ちますがその言葉の重みが広がっているように感じます。
「ユーザーエクスペリエンス=ユーザー体験」は、人が感じた体験を意味しますが、現在のビジネスに置いて、ユーザー視点で、ユーザーの行動を見ることは非常に重要な役割をはたしています。
ビジネスを行う上で「売上」はつき物です。そのためにはセールスが必要ですが、単純に売ろうとするセールスは成り立たなくなっています。
1940年代にドラッカーがマーケティングを考案しました。社会的なポジションニングを作るという考え方で、社会・組織の中の印という観点から論じられています。
ドラッカーの名言の中にも、「マーケティングの目的とは、顧客を理解し、製品とサービスを顧客に合わせ、おのずから売れるようにすることである。」とあるように、人を見てサービスを提供する姿勢の根本は一昔前に既に存在していると言えます。
このように、マーケティングの概念は基本的に変わらないのですが、人は販売する側になると売上を気にして、売上にフォーカスしたセールスポジションなってしまいます。これは制作者とユーザーという立場にも似ています。
カスタマーからユーザーに
一昔前からベースになる基本的な概念がありながらも、UX、サービスデザイン、行動経済学などなど新しい言葉が誕生してきています。それは、時代の変化、生活スタイルの変化、メディアの変化、サービスの変化によると考えられます。
インターネットが誕生して、パソコンという空間やサービスの中でユーザーが操作することが多くを占める中、操作をするというデザインの重要度が増してきています。
カスタマーからユーザーという視点に変化し、デザインの役割の幅が広がっていることで、UXは、マーケターや企画、立案するプランナーなど立場の領域にもなってきています。
UXを考えることからいろいろな視点が生まれた
UXと言葉がつく肩書を調べた人がいます。その方の紹介によると、UXがついた肩書は、UXデザイナー、UXコンサルタント、UXプランナーなど、200以上のものがあるそうです。
考え方も同じで、UCD、HCD、DDD、HCI、行動デザイン、サービスデザイン、ゲーミフィケーションなど、ユーザーやユーザー心理を考慮して誕生したものです。これらは、少しづつ考え方やニュアンスが異なり、全て正しい考え方です。しかし、どの分野においても間違った解釈をする場合があります。
間違ったUXデザイン
200以上の肩書、ユーザーを考慮した思考が数多くあるように、UXは解釈次第でいかようにも変化してしまう場合があります。時に、間違った解釈をしてしまうようです。
数年前に、「UIの改悪がUXを改善させる場合(http://blog.livedoor.jp/lunarmodule7/archives/3675720.html)」という記事がありました。この記事を読んだ時に凄く違和感を感じたのですが、やっぱりこれは正しくないと考えています。
良いUIは、良いUXとは限らないという内容で空港の手荷物引渡所(Baggage Claim)の事例を紹介しています。具体的な内容は以下です。
- 空港の手荷物引渡所で「荷物が来るのが遅い」とクレームが入っていた
- 解決方法として搭乗者に手荷物引渡所まで必要以上に長く歩いてもらって時間を稼いだ
- 結果として、クレームがなくなった
これは本当に問題解決しているのでしょうか?
例えば、足の悪い人にとっては予定より時間がかかってしまいます。そうなれば、荷物のピックアップがなかな終了しないという問題も発生する可能性もあります。
そして、なんと言っても顧客が気がついた時に、その企業のイメージは凄く悪いものになります。ソーシャル時代において顧客を騙す行為は致命的で、取り返しのつかないことになる場合があります。
問題解決方法は?
この場合の問題解決は、本当の意味でのUXにあります。
搭乗者としては荷物が早くでてきてほしいのですが、現実的に早く出すことができないのであれば、出てくる時間を明示すればいいのです。
あと何分あるかわかれば、トイレに行くこともできますし、待つこともただ待たされるより気にならなくなります。自分の荷物が今どこにあるかわかれば待つことができるかも知れません。これは、赤信号と同じ心理で、漠然と待たされることをユーザーは嫌います。
この観点さえあれば他にもいろいろなアイディアが生まれてくるでしょう。本当のユーザーを見てUXを考慮すれば、UIを悪くするということにはなりません。UXはユーザーを見ることからはじまります。”顧客を騙すようなことはしない”ということが、UXのベースなのです。
デザインは誠実な方がいい
広告のデザインでも同様のことがあります。
これは、FBのメッセージシグナルのUIを広告として利用したものです。私も制作者、マーケターという視点で「バナーはクリックされてなんぼ。」と思い、面白いデザインだとはじめは思ったのですが、やはりユーザーを騙すデザインは良い結果は産みません。
実際に数値は伸びたかも知れないのですが、遊び心とも思わず、本気で自分に何かシグナルがでていると思ってみたら、広告だった。と感じるユーザーにとっては決して良いイメージではないでしょう。
同様の広告で、似た人物を並べてユーザーが勝手に同じ人物だと判断させる広告があります。その企業が本当に良い商品を扱っていたとしても、ユーザーを騙す広告は、結果としてその企業イメージは良くないものにしてしまいます。
制作側の立場になると、どうしてもユーザー視点で物事を捉えにくくなってしまいますが、本当のユーザー視点に立ち返り、誠実な考えでUXを設計していきましょう。